VOL.09

2023.12.25 MON.

ARTISTA

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基本に忠実な王道のイタリアンが楽しめるイタリア料理店。「安心、安全、美味しい」をコンセプトに、素材や調味料を厳選した料理を追求している。いろんな国の方が暮らす六甲アイランドで、幅広い層から支持を集めている。広々とした空間で、ゆったりと食事の時間を楽しめる。

神戸ファッションマート1F

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2度目の登場となる中村シェフ。話好きな性格のせいか、肝心の「まさかのこんなものもあります」というテーマもそっちのけで(笑)、いろんなお話をしていただいた。当方も料理好き、イタリアン好き、ワイン好きでもあるので、おっしゃる話がいちいち面白くて、うなずくばかり。こんな取材なら、もっと長い時間お話がしたかった(ワインを飲みながら 笑)。さて、どんな「まさか」がこの店にあるのか?

シェフ 中村泰一郎 さん

21歳から料理の世界に入った中村シェフ。東京、神戸などのイタリア料理店で修行をしたのち、29歳で「アルティスタ」にシェフとして迎えられた。自身がワイン好きなのでワインに合う料理を出したいと言う。とくに夜は料理とワインを楽しみに来ていただけるよう、自慢のメニューを用意している。

商業施設ビルの中の店なので、"まさか"
お客さまも期待していないんじゃないかな。

うちの店は商業施設の中というか、ビルの中にあるので、「まさかこの店が…」って、お客さまは期待していないんですよ。今日のテーマのまさかは、そんなまさかではなかったですね(笑)。でも、「こんなのが食べたい」と、言われると、まさか!と思っていただけるようなものをお出しできるルートがあります。とくに魚介はトップクラスのものが手に入ります。

高級寿司店に行くような、"まさか"と思うような
魚を仕入れるルートがあります。

古くからの友人に、明石の魚屋がいます。フランスへ行って魚の指導をするくらいの知識や造詣があります。グルメの世界で魚をリードしているといっても過言じゃないくらいのすごいヤツなんです。有名店に卸すくらいのクオリティーの、明石の昼網であがったものを選んでくれるんです。だから、うちは本物しか使いません。まさかと思うくらいの本物をお出しできます。うちの明石タコは正真正銘の明石タコです。明石の本物の魚屋が選ぶ、本物の魚介類こそ、うちのまさかです。
住まいは垂水なんですけど、ずっと“前もん(目の前の瀬戸内海で獲れたものという意味)”に親しんできましたから、その明石の友人が選んでくれる魚介を本当に信頼し、こだわっています。高級な寿司店に行くような魚を直接仕入れられます。「アクアパッツア」という料理がありますが、うちでは貝やオリーブは入れません。貝の味に頼らなくても魚と水だけで、驚くほど美味しい出汁を引くことができます。魚と水以外は、ほんの少しのニンニクとイタリアンパセリだけです。さっきまで生きていて泳いでいた魚ですから、鮮度が良くて煮崩れることもありません。鮮度が大切なのでアクアパッツアは予約でやっていますが、ぜひ食べていただきたいです。

いまの季節ですと、予約いただければ
ジビエもお出しできます。

毎日さわっていない食材でも、「こんなものが食べたい、あんなものも食べてみたい」とリクエストをいただければ、特別なものを出すことができます。たとえば、いまの季節ですとジビエですね。ハト、シカ、イノシシ。ポピュラーなものではカモ、ヒツジですね。シカは飛び跳ねているせいか、筋肉が締まっていて脂肪がなくて硬いんですが、レアが美味いんですよ。焼くというよりも低温で温めるイメージで調理します。赤身のお肉はバターで焼くとジューシーに仕上がります。イノシシはパスタソースなんかに合いますね。よく煮込んで味を出します。ヒツジはうまいのに、なぜかあまり出ないときもありますね。
以前、フレッシュポルチーニが入ったのでとお出ししたら、長くミラノにおられたお客さまが「懐かしい〜!」と、喜んでくださいました。通常は特殊なものはなかなか出せないんですが、トリュフが入ったりすると、ハトを焼いてトリュフを乗せると、これがまた美味いんですよね。
ワインをコレクションされているようなお客さまですと、事前にご相談いただければ、ワインをお持ち込みいただきコレクションのワインに見合った料理を用意できます。

ボクは野菜が大好き。
日本ではお目にかかれないような野菜も扱います。

神戸だけの取引先ばかりになると、マニアックなものが手に入りにくくなります。野菜は石井農園といって千葉にあるんですが、珍しいイタリア野菜はここから入手しています。アーティチョークの生はカルパッチョで食べます。カーボロネロという名の黒キャベツは、柔らかい野菜じゃないのでクタクタに煮込んで食べます。ローマの冬野菜にプンタレッラがあります。ローマの伝統野菜で「冬の野菜の王様」と言われています。チコリの仲間なんですが、ニンニク、アンチョビ、チーズのドレッシングと良く合います。他にもラディッキオロッソ、トレヴィーゾ、フィノッキオなんていうのもこれからの季節には入ってきます。
野菜が大好きなので、日本ではお目にかかれないような野菜をどんどん使ってみたいです。じぶんのさわるものには納得したいですから。市場の野菜も良いですが、石井農園さんのようなところから直接仕入れたいですね。なるべく鍋とフライパンだけでどこまで美味しくつくれるかというのがワタシのテーマなんです。そのシンプル志向のポリシーは調味料などにも共通します。添加物なんかはもってのほかだし、調味料をどれだけ減らせるかを常にアタマにおきながら料理に取り組んでいます。
「あっ、そうそう。冷蔵庫にいま熟成させている自家製のパンチェッタ(塩漬けした豚肉をハーブやスパイスで風味づけして熟成させたもの)があるので見てください」と、いうわけで冷蔵庫の前まで導かれた。冷蔵庫の扉を開けて大きな肉の塊を取り出した中村シェフ。「こういうものも自家製でやることで調味料を減らせます」「このパンチェッタを使ったカルボナーラは絶品ですよ!」ということでした。最後に「まさかの自家製」の登場で締めくくり。絶妙なエンディングでした。

厨房から良い匂いがするので、そちらも見学させていただいた。
牛の首肉を煮込んでいる最中だった。「肉が硬い部位は煮込むと美味いんですよ」とのこと。
ブーケガルニ(ローズマリーやセージなどの香草類を束ねたもの)と赤ワインでじっくりと煮込んでいくとか。ちょうど煮汁を濾すタイミングだった。「そこは、やらさない。オレがやる」と、スタッフに向かって言うや中村シェフがみずからやり出した。この濾した汁を煮詰めて、そこへ肉を戻し三日間寝かせて味を含ませるそうだ。「牛肉の赤ワイン煮込み」。これは、ぜひ食べてみたいものだ。
本日はいろいろな「まさか」をご紹介いただきありがとうございました。楽しいお話に時間が経つのを忘れてしまいそうでした。

インタビュー&ライティング 田中有史

※写真撮影時のみマスクを外しております。各店舗とも適切な感染症対策を実施しております。

神戸チャイハーネ

神戸チャイハーネ

「日本茶復権」をコンセプトに掲げる日本茶専門カフェ。日本茶ソムリエでもある店長が、日本茶の楽しみ方をさまざまに提案する。店の外から受ける印象とは違って、店内に一歩足をふみいれると想像以上に広くて居心地が良い。まったりお茶の時間を楽しめそうだ。平日は9割が常連というのもうなずける。いままで味わったことがないような日本茶の楽しみ方に、ぜひ出会っていただきたい。

神戸ファッションマート2F

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前回は「オーダーという手があったのか」というテーマで取材をさせていただいた。そのときすでに、「アタマの良くなるお茶が欲しいというような無茶振りなお客さまもいらっしゃるんですよ」というような“まさか”な楽しいお話がたくさん出てきた。なので、今回もどんな「まさか」が飛び出すか。前回を超えるか?期待いっぱいで植木店長のお話がはじまったのだ。

店長 植木佑平 さん

神戸は元町商店街にある老舗お茶屋さんに勤めていた植木さん。その店で、日本茶ってこんなに美味い!こんなに凄い!という感動を体験。道行くひとに日本茶を振る舞ったり、茶葉を売ったりしていたが、葉っぱを売るだけでは日本茶は普及しない。「自宅ではなく外で日本茶を飲む習慣をつくりたい」と一念発起して、この店をオープンさせた。

いま、なにか面白いものはない?
あるよー。

常連さんは良く「何かない?」と切り出してきます。「今日はこんなのが飲みたい」ではなく、「何かない?」が常連さんとの会話のはじまりなんですよ。この前も、「いま何かない?」と、常連さんに聞かれたので、福岡県の八女の玉露をお出ししたんです。
このお茶は品評会で賞を獲ったお茶です。出品用としてつくられたトクべツなお茶で、量もそんなになくて、賞に出すぶんを10kgくらいしかつくらないんです。審査が終わると出品した茶葉は戻ってくるんですが、自家消費や関係先へ配るだけで終わっちゃうんです。これは、たまたま500gほどが縁あってうちへまわってきたんです。レアな、“まさか”なものですね。こんなのはじぶんからPRするわけではなくて、好きそうなひとから、「今日は何かない?」って聞かれると出したくなります。その常連さんは玉露がメッチャ好きで、口に含んだとたんに「別格ですね」と、言ってくださいました。そのとおり、味がついていないほどのクリアーな色で、まさにピュアな味がしました。マニアでも未体験の味だったはずです。

「記憶の中のお茶が飲みたい」という、
まさかのオーダーもありました。

いまのは「まさか」な茶葉のお話ですが、「まさか」なオーダーとしては、こんなのがありました。それは、「記憶の中のお茶が飲みたい」というものです。その方が関東で仕事をしていたころによく親しんでいたお茶ということで、ヒントはそれだけでした。関西から東京へ転勤し、その濃い味に慣れてきたとおっしゃるので、まず静岡のお茶を出してみましたが、どうも違うということで、茶葉を増やしてみたり、いれ方で味にパンチを出してみたけど、やっぱり違う、と。そして、狭山茶をすごく熱い熱湯でいれて出してみたら、「おっ!これかも!!」と、なりました。こういう「まさか」な注文はじぶんの中の引き出しをいろいろと探っていくようで楽しいものです。
九州から神戸へ転勤になった方が強烈なホームシックになってしまったとお聞きし、鹿児島あたりの方だということで知覧のお茶と八女のお茶をブレンドして飲んでいただきました。すると、急に泣き出して、「うちの地元って、こんなに良いお茶をつくっていたんだ!」って、言うんですよ。これなんかは、なんだか人助けができたようで、こちらも嬉しくなってしまいました。こういう場合は、好みの温度や香りを聞きながら、じぶんの知識や記憶の中から近いお茶を推理しながらやっていきます。

「チャイ」はトルコ語でお茶。
実は世界でいちばんお茶を飲んでいる国がトルコなんですよ。

「チャイ」と聞くと、インド料理店で飲むスパイシーなミルクティーを思い出すひとも多いのではないですか。あれは、正式には「マサラチャイ」。うちの店名の「チャイ」はトルコ語なんです。トルコ語のチャイは「tea」。「ハーネ」は「house」。「チャイハーネ」はトルコ語でお茶屋という意味です。
「チャイダンルック」という2段重ねのやかんでいれます。下の段にお水を入れ、上の段に茶葉を入れて蒸し煮します。こういう伝統的ないれ方ですと時間がかかるので、うちではいれ方を変えています。水に茶葉を入れて直火にかけてお茶をいれます。来店されたトルコの方が、「ほぼ本国の味に近い」「ここで飲んだお茶が、いままで飲んだお茶の中でいちばん美味しい」と、言ってくれました。これも、“まさか”ですね(笑)。

お茶はカラダに良いので、もっと消費してほしいです。

ご存じないでしょうが、トルコは世界でいちばんお茶を飲んでいる国です。一人当たり年間3.2kgの消費量だといわれています。飲んでいるのは普通の紅茶です。砂糖もミルクも入れずに飲みます。一人当たりの年間消費量を国別で見ると、イギリスは約2kg。日本は意外にも、とても少なくて800gしか飲んでないんです。残念ながら日本は中国に抜かれちゃいました。中国では工場などの作業をしている場所にもお茶が置いてあって、仕事中にガブガブ飲む習慣があります。こういう日常的にお茶を飲む習慣に、日本もあやかりたいですね。
お茶はカラダに良いので、もっともっと消費してほしいと思います。ワタシも、お茶の消費を拡大させる方法はないかと、常に考えていますし、これからもいろんなことを提案してお茶に興味を持っていただくようにしていきたいと思います。トルコを抜けるくらいの“まさか”になると良いですね。

「究極的にはお茶をワンボトルに入れて販売してみたい」という植木店長。
じぶんが思うお茶を出すよりも、まずはお客さまの好みを聞きます、と言う。その方が、お客さま目線からの“まさか”ではなく、じぶんの目線からの“まさか”と出会うことができるから、と。これからも、
お客さまと一緒になってお茶の楽しみ方を広げていきたいと締めくくりに語っていただいた。
本日も珍しいお話をたっぷりとお聞かせいただき、ありがとうございました。

インタビュー&ライティング 田中有史

※写真撮影時のみマスクを外しております。各店舗とも適切な感染症対策を実施しております。

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