VOL.15
2024.11.12 TUE.
いつ入店しても、その規模に驚かされる、広大なスペース。そこに、イタリア、ドイツ、北欧、そして我がニッポン…。「おっ、知っている」「あっ、あの憧れの」「雑誌で何度も見た」というような世界の名品が、店内狭しと、置かれている。家具好きには堪らない店だ。すべて見て回るのに、いったいどれくらいの時間がかかるのだろう。目についた家具に引かれるように、あちらへこちらへ、気の向くままに店内を旅するように回遊したくなる。
さて、本日のテーマは、「出会いは一瞬、つきあいは一生」。
どんな楽しい話が待っているのだろう。
MD担当 小林昭彦 さん
大丸神戸店の家具売り場に配属以来、家具に携わって35年超。家具のスペシャリストといえる大ベテランである。約20年前の大丸インテリア館[ミュゼエール]の立ち上げから、神戸ファッションマート店に在籍している。MD担当としての豊富な経験をいかし、商品揃えや仕入れなどを取り仕切っている。
芦屋在住のAさんとのお付き合い。
うちの店にはコロナの前から何度も来られていてお買い物もしてくださっている方とのエピソードです。テーマに合っているのかどうかわからないのですが。と、小林さんが語ってくれたのは、じつに楽しい話だった。
その方、仮に芦屋在住のAさんとしておきましょう。と、話は始まった。Aさんはシュトゥットガルトに拠点を持つ貿易商。インテリアがお好きで、それだけにこだわりが強く、注文もディティールまでシビアという方だ。ある日、「“ヒュルスタ”(ドイツの家具ブランド)のリビングボードに詳しい係員はいないの?」ということから、ドイツの工場などへの渡航経験のある小林さんに白羽の矢が立ったという。それが、Aさんとの“偶然の出会い”だった。ドイツと貿易をしているAさんはドイツの首相が来日すると東京へ招待されるような地位の方で、最初はすごく緊張したそうだ。
“ヒュルスタ”のリビングボードにTVを置きたいという要望への小林さんからの提案が気に入られ、その後は何度も声をかけていただくようになり、ご自宅までお伺いするようになった。小林さんがオリジナル家具の製作でシュトゥットガルトを訪れた話をするうちに、それなら「こんど行くときには、わたしが通訳をしてあげるわ」と、言われるほどに親しくなっていったとか。
いつの間にか、通訳を買って出ていただくような関係になりました。
“ヒュルスタ”のリビングボード以降、ご自宅へお伺いするたびに、小林さんはさまざまな相談を受けるようになった。あるときは配線工事の手配をしてあげたり、あるときはイタリア製の大理石のテーブルのリメイクの相談を受け職人を連れて行って作業をしたり。(ちなみにレベルの調整が難しく作業は大変だったそうだ)
小林さん曰く「モノもストレートにおっしゃるし注文も細かいので、きっとベテランのわたしなら対応できるだろう」と、紹介した担当者に思われたんでしょうね。いえいえ、そんなことはないでしょう。ベテランだからというだけではなくドイツ家具はもちろん、さまざまな家具やインテリアの知見があり、造詣深かったから、ウルサ型(失礼!)のお客さまに気に入られ、しかも気が合ったので“つきあいは一生”という関係になり、それがずっと続いているんだと思いますよ。
家具の大ベテランは、ウルサ型の顧客だけではなく、わたしのような家具の素人にも目配りと気配りが行き届いた接し方がとても優しく感じられる。簡潔でわかりやすくて、しかも奥の深い話でした。話が簡潔、そして分かりやすいという点もお客さまに愛される理由ではないでしょうか。しかも、ところどころにユーモアたっぷりなNG(?)ワードも混ぜながら(笑)。飽きさせないというのは接客の基本なんでしょうね。
インタビュー&ライティング 田中有史