店長 植木祐平さん
神戸は元町商店街にある老舗お茶屋さんに勤めていた植木さん。その店で、日本茶ってこんなに美味い!こんなに凄い!という感動を体験。道行くひとに日本茶を振る舞ったり、茶葉を売ったりしていたが、ただ茶葉を売るだけでは日本茶は普及しない。「お茶の楽しみ方まで提案できるスタバのようなお茶屋を出したい」と一念発起して、この店をオープンした。
Q:玉露をもっと楽しむには?
これまでの取材で植木さんから、さまざまなお茶の話をお聞きし、めずらしいお茶の試飲やお茶の葉の佃煮の試食までさせていただいた。今回はどんな話をうかがおうか。と、思案していたとき、「そうだ!玉露ってぜんぜん経験がないよね」と、思った。高そう。苦そう。いれ方が難しそう。さまざまな先入観があるけど、はたしてそれらは、そのとおりなのか?やっぱり先入観や誤解なのか。じぶんの無知や思い違いを正すためにも、お茶のプロから“玉露”の話を聞きたいと思った次第である。
A:良いお茶はお湯を冷ませ。
植木さん:おっ、そうきましたか。今回は玉露ですか。では、まずは玉露そのもののお話からしましょう。お分かりでしょうが、玉露も緑茶の一種です。ただし、仕立て方(栽培方法)がまったく違います。玉露は茶摘みの1ヶ月くらい前から光を遮って育てるんです。葦簀(ヨシズ=葦の茎を糸で編み上げた日本の伝統的な日除け)でだんだん覆っていき、最後は真っ暗な日陰のハウスにします。お茶は光を浴びることで、うま味成分がカテキンに変わります。カテキンがじつは、渋みのもとなんです。カテキンが多いと渋くなります。光を遮ると葉緑素を蓄えようとして、濃い緑色になります。そうやって育てた玉露はうま味が充分に熟したところで摘みますが、玉露の摘み方には厳格なルールがあります。玉露はかならず手で摘むと決められています。玉露の栽培には手間がかかります。通常よりもかなり多くの肥料(一節では約2倍)を与えないとうま味が出ないと言われています。栽培が大変なので玉露の収穫量はたいへん少なく、約10年前で7万トン強(お茶全体の0.1%未満)しかないと言われていました。そのせいで、価格も通常のお茶に比べて非常に高く、一般的なお茶に比べると3倍近い価格で売られています。玉露の栽培は宇治ではじまりましたが、初めて玉露を売り出した土地は江戸です。いまでは海苔で有名な「山本山」さんです。“玉のように美しい茶葉”から「玉の露」と呼んだことから、のちに「玉露」となったと言われているとか。名高いのは宇治玉露と八女玉露で、宇治と八女が2大ブランドです。
※さて、玉露の基礎知識を教えていただいたところで、いよいよ実践編というか「いれ方編」です(待ちに待った試飲タイム!)。
正直、お客さまからの玉露の注文はあまりないです。1年でも数えるほどです。玉露は低温であるほど味(うま味)が出ます。究極は氷と水が良いと言われるほどです。美味しくいれるには、時間がかかります。でも、低温でじっくりいれたほうが美味しく飲むことができます。「良いお茶はお湯を冷ませ」と言われる所以です。では、やってみましょう(植木さんが玉露をいれてくれます)。
玉露はひと肌くらいの温度に下げたお湯でいれます。こうやってお湯を急須に注いで、約200秒で茶葉が開きます。飲む際には、ふつうは玉露椀という小ぶりな専用の茶碗を使います。猪口のようなサイズのものです。うちの店ではあえて酒器を使って趣を出しています。急須もこのように持ち手のない、専用の小さなものを使います。取っ手がないのは低い温度でじっくりいれるため、取っ手がなくても持つ部分が熱くならないし、この形状だから茶葉が広がりやすいんですよ。さ、まずは、一煎目(いっぱい目)を味わってみてください。
酒器に注がれた玉露は明るくきれいな緑色。金色透明(きんしょくとうめい)の美しい色です。口に含むと、このうえなくリッチなうま味が口中に広がります。飲んだあとも上品なうま味が余韻としてずーっと口に残ります。苦みは一切なし。想像していた味とはまったく違い、ものすごく飲みやすいものでした。二煎目以降はうま味だけでなく、苦みがでるそうだ。普通はやらないそうだが、いただいてみると充分に美味い。一煎目から三煎目までは同じようにひと肌でいれ、四煎目、五煎目はややお湯の温度を上げていれるのが植木さんのオススメだ。やはりお値段的にはかなり高いものになってしまうそうだが、植木さんが玉露をいれてくれる、慈しむように絞り出す姿はじつに優雅だ。独特の形式美がある。興味をだいたひとは、ぜひ味わってほしい。

はじめて味わったが、非常に美味しい。癖になるぜい沢な味と言っても良いだろう。実際、飲み方を知るひとは少ないそうだ。でも、この味はもっと普及してほしいな。このお店でもなんとかグランドメニューにならないだろうか。植木さんによると、カフェインが多いので夕方以降は飲まない方が良いとか。ならば、友だち何人かで「玉露会」でもいかが。人数が集まると実現可能かもしれない。
インタビュー&ライティング 田中有史